【事例付き】年功序列は廃止すべき?メリットや成果主義移行のポイント5つ
日本の官公庁や企業では、年功序列という人事制度が当たり前のように採用されてきており、今でも多くの企業に根深く浸透しています。
しかし、「活躍している優秀な若手社員がそれ相応な評価・報酬を受け取れていない」「年功序列が原因で若手社員が会社を辞めたり、やる気を無くしたりしている」など、年功序列には問題点も多く存在しています。
そのため、「頑張ったら頑張った分だけ評価される会社にしたい」「やる気で満ち溢れる会社にしたい」と、年功序列を廃止し、成果主義へ以降したいと考えている人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
年功序列を廃止して、成果主義の企業に移行していくためには、年功序列のメリット・デメリットを理解して自分の会社に合っているのかを考える必要があります。
この記事では、年功序列の意味や成果主義との違い、年功序列を廃止するメリット・デメリット、年功序列から成果主義へ移行する際のポイントや注意点を紹介していきます。
目次
年功序列の意味とは?どのような制度なのか
年功序列とは
年功序列とは、社員の勤続年数や年齢を重視し、役職や賃金などを決定する人事制度です。日本の多くの企業で採用されてきました。
「年功序列」は高度成長期の日本企業を表すキーワードの1つでもあります。1958年にはアメリカの経営学者、ジェイムズ・アベグレンの著書『日本の経営』のなかで、終身雇用や企業内労働組合と並ぶ日本的経営の特徴として指摘されました。
企業側にとってのメリットは、社員の定着化が図れるうえ、人事の業務を単純化できるという点です。社員側にとってのメリットは会社に長く勤務することで、役職や高収入を得られる点です。この保証は、社員の退職を引き止める要因として機能してきました。
年功序列が生まれた背景
年功序列の基盤ができたのは大正末期から昭和にかけてだとされています。それまでは日本でも能力給が主流だったようです。
しかし、能力給が主流であれば、優秀な人材がより高い収入を求めて他社に移ってしまうため、年功により賃金を上げることで人材の流出を防ぐ仕組みが用いられるようになっていきました。
また、かつてはピラミッド型の人口構造であり、団塊ジュニア世代など若者が多い世代の賃金を抑えて上の世代ほど賃金を上げるのは、企業にとって合理的な手法であったという点も見逃せません。
高度成長期になるとさらに企業は人材の確保を重要視し、働く側も安定を求めたことから年功序列が定着していったと考えられます。
成果主義とは?年功序列との違い
成果主義とは、年齢や勤続年数に関係なく、個人の能力や会社への貢献度によって賃金や役職が決まる人事制度です。
年功序列は、年齢や勤続年数によって昇進・昇給しますが、成果主義では、仕事の成果によって昇進・昇給します。
年功序列の実施状況
総合人事コンサルティング会社のフォー・ノーツが2022年に実施した「年功序列をはじめとする人事評価制度に関する意識調査」によると70%以上の会社が「年功序列である」または「やや年功序列である」と回答しています。
「あなたの会社には、やりがいを持って働ける環境があると思いますか」という質問に対して「すごくあると思う」または「まああると思う」と回答した割合が最も高かったのは、「やや年功序列である」と答えた会社に勤めているオフィスワーカーで、約60%でした。
このように、「やや年功序列である」会社はエンゲージメントも高い傾向にあり、適度な年功序列はポジティブな作用があるといえるようです。
年功序列はもう古い?なぜ各社廃止の方向へ
高度経済成長期では、企業側に大きなメリットを与えた年功序列制度ですが、現代ではデメリットが大きくなってきています。
これには大きく以下の原因が考えられます。
終身雇用の変化
年功序列とセットにされてきた終身雇用への意識が、世間一般で変わったのが年功序列にも影響しているようです。
現在、バブル期などに大量入社した世代が50歳以上となり、会社全体の年齢層が上がったことで、人件費が企業を圧迫するようになってきました。そこで、早期退職などを促す企業も多く出てきています。
社員側の意識も変化し、定年まで会社に所属するのではなく、チャンスがあれば転職を望む人も増加しました。
早期の退職が一般化したことで、定年まで働く人を確保するための年功序列は、必要性が薄れたのです。
少子高齢化に伴う労働人口減少
少子高齢化が進み労働人口が減少しているなか、企業は優秀な人材を確保しなければならず、より良い環境と条件を提供するために成果主義を取り入れる企業が増えました。
また、早期離職者も増えるなか新卒一括採用だけでは人材が確保できず、転職者やシニア、外国人など多様な人材を獲得するなかで、従来の年功序列という仕組みでは組織運営が困難になってきたのも原因の1つです。
急速なデジタル化
急速なデジタル化によって人が行う業務内容が変化し、「ベテラン社員ほど活躍できる」という状況ではなくなってきたのも大きな要因の1つです。
デジタル化は従来の業務の形を大きく変えつつあるなか、既存の仕事の進め方に慣れている中堅〜ベテラン社員よりも、デジタル世代である若手の方が業務の変化に順応しやすいシーンも増え、年功序列を中心とした人事制度では不平等だと思われるようになりました。
年功序列を廃止するメリット・デメリットとは?
年功序列を廃止して成果主義の人事制度を取り入れた場合の企業側に与えるメリット・デメリットを紹介します。
年功序列を廃止するメリット
年功序列を廃止して、成果主義を採用することのメリットは以下のとおりです。
(1)不必要な人件費の削減
年功序列制度下では、モチベーションが低く成果を上げていない社員に対しても、年次が上がるにつれて右肩上がりの報酬を支払わなければなりません。
しかし、成果主義を採用すれば、その成果に見合っただけの報酬を支払うことになります。成果を出していない社員に支払っていた賃金を、成果を出している社員に再分配できることで、より効率的に人件費を活用することができるのです。
(2)成果が評価されることによるモチベーションの上昇
年功序列制度下では、成果を出しても昇進や昇給に反映されず、逆に成果を出さずとも昇進や昇給が保障されています。このような環境下では、社員のモチベーションは下がりやすくなってしまいます。
しかし、成果主義を採用すれば、成果を出さなければ昇進や昇給を獲得できません。
年齢や勤続年数に関係なく、成果を出して企業に貢献すれば、若い社員や勤続年数の少ない社員でも、昇進や昇給のチャンスがあります。そのため、社員のモチベーションアップに繋がり、生産性の向上が期待できます。
(3)社員が自らスキル向上に力を入れる
成果主義を採用すれば、社員は自らのスキルの向上が、昇進や昇給に繋がることを理解しているので、会社が指導しなくとも、自らスキル向上に力を入れるようになります。
社員が社外において自発的にスキルの獲得に励むようになったり、社内研修や勉強会などへの取組姿勢が改善したりと、会社にとっても費用対効果の向上が期待できます。
(4)優秀な社員が増える
成果主義を採用すれば、成果を出して会社に貢献した社員やチームに昇進や昇給のチャンスが訪れます。その結果、成果を出すことに対して、社員間やチーム間で競争や協力が生まれ、社員やチームのスキルが底上げされるのです。
さらに、このことは、競争している社員やチームの周囲の者までも巻き込み、仕事への意識も変化することから、会社全体として優秀な社員が増えることが期待されます。
年功序列を廃止するデメリット
年功序列を廃止して、成果主義を採用することのデメリットは以下のとおりです。
(1)社員の離職率が増加する可能性
成果主義の採用により社員間に競争が生まれることから、競争に付いていけず、なかなか成果を出せない社員は疲弊し、報酬もモチベーションも低下してしまいます。その結果、実力主義に付いていけなかった社員は会社を退職する可能性があります。
また、このような社員が増えれば、会社の離職率も増加してしまいます。
(2)社員が成果主義の評価にこだわりすぎる
成果主義の採用下において、社員が評価にこだわりすぎるあまり、評価に直結しない仕事をおろそかにするなどの弊害が出てくる可能性があります。
例えば、社員同士の助け合いや連携、後輩の育成などがおろそかにされたり、成果に直接繋がらない仕事を避けたりするというようなことが起こるかもしれません。
(3)成果に限定して評価されることによるモチベーションの低下
成果主義を採用した場合の人事評価は、とても難しくなります。社員の努力が報われず、偶発的な出来事など外的要因も含めて成果が出せなかったとき、全く評価されない人事制度では、社員のモチベーションの低下に繋がってしまいます。
対策として、定量的な中間指標の評価や、定性的なプロセス評価などを取り入れて、たとえ社員の最終的に求められる成果を達成できなかった場合も、評価を分散して社員のモチベーションが下がらないよう企業も努力する必要があります。
(4)成果が見えづらい部署の評価がしづらい
成果主義は、成果が見えやすい営業部門などにはメリットがありますが、成果が見えにくい総務や経理などの間接部門については、評価が出しづらいというデメリットが出てきてしまいます。
その結果、間接部門の社員のモチベーションが低下するリスクがあります。
年功序列と成果主義のどちらを選べばよい?
成果主義に移行する企業がある一方、前述の調査にもあるように、年功序列には一定のメリットがあると考えられることから、適度に年功序列を維持している企業は多数あります。年功序列はもう古く、時代に合わないという人もいますが必ずしもそうではないようです。
年功序列は日本特有と思われがちですが、ドイツやオーストリアなどでも年功序列の傾向が強いとされ、社員の熟練度に応じて賃金等級を設定するのは決して珍しいことではありません。
確かにIT企業やクリエイティブ系の会社、販売職が多い企業など、労働市場の流動性が高く個人の成果が求められる組織には成果主義が向いていることもありますが、チーム力が必要な企業など、個人の成果が見えにくい場合は年功序列の方がマッチする場合があります。
必ずしも成果主義に移行する必要はなく、自社の文化や業務実態に合った制度を作ることが大切です。
年功序列を維持する場合の成功ポイント
年功序列は企業によっては適しているとはいえ、組織力低下を招く可能性もあります。年功序列を適切に維持するためには、以下のポイントに注意してください。
適正な評価・賃金体系
年功序列は年齢とともに賃金が上がっていくため、若手の給与は低く設定されています。そこで、評価制度と賃金体系に本当に問題がないか見直しをしてみましょう。
若い社員の離職の要因として、人間関係や仕事のやりがいとともに、賃金の低さを挙げる人も多くいます。「〇歳になれば今よりも〇万円くらい賃金がアップする」と言われても、先々のことはなかなか考えられないものです。
少なくとも安心して暮らせるような賃金は保証しつつ、やる気がある社員や能力の高い社員には適切な評価と賃金を提供したいところです。
教育・育成環境の整備
年功序列で長期にわたって働く人材を確保し続けながら、企業の事業収益も上げていくには、教育・育成環境の整備も必要です。
年功序列・終身雇用の良い点としては、社員がスキル・知識を安定して蓄積できることが挙げられます。専門性の高い社員が増えることは企業にとっても大きな強みとなりますが、一方で、事業環境の変化に対して柔軟に対応しにくくなるリスクがあります。
そこで、部署を横断してフレキシブルに動ける人材の確保・育成も必要です。例えば、定期的に部署を異動する仕組みであるジョブローテーションの実施も1つの解決策になるでしょう。
採用活動の強化
人材の採用活動も強化する必要があります。
年功序列は社員の長期的な雇用を前提としているので、まず自社のビジョン・企業理念に共感でき、組織人として活躍するための基礎的な素養があり、長くスキルを磨いていくことができる意欲的な人材を採用することが重要な課題です。そのためには自社の求める人材像を明確に定義したうえで、適切な採用チャネルを用いて求める人材にアプローチしなければなりません。
年功序列から成果主義へ移行する際のポイント・注意点
年功序列から成果主義へ移行する際に気をつけなければならないポイントや注意点を紹介します。
ポイント1|成果主義取り入れにおける割合の判断は慎重に
年功序列から成果主義へ移行する際、すべての部署に成果主義を導入させる必要はありません。
年功序列制度を一切廃止した完全成果主義を採用する企業もありますが、成果主義制度を導入させる最適な割合は企業によって異なります。
重要なのは、自社の社風に合った人事制度を採用することです。
実際、社員の報酬を決める制度の一部だけに成果主義を取り入れている企業も多くあります。
ただし、一度採用してしまうと元に戻すことは至難の業なので、成果主義制度をどのくらいの割合で企業に導入するか、慎重に判断してください。
ポイント2|激変緩和措置への配慮を
人事制度の変更は、社員にとっては現状の生活や将来設計に関わる重要なことです。
年功序列から成果主義へ移行する場合、いきなり移行するのではなく、例えば年功序列的な部分を残しつつ、徐々に移行していくなどの選択肢を検討してみましょう。
社員の負担を最大限に考慮して、できるだけ負担の少ない形で、激変緩和措置などの配慮が必要です。
ポイント3|人件費の削減という考え方はNG
成果主義へ移行する目的は、会社への貢献度の低い社員に支払っていた人件費を、貢献度の高い社員へ分配させることであって、会社全体の人件費の削減ではありません。
もし、成果主義への移行の目的を人件費削減と捉えている場合、貢献度の高い社員が多くなって人件費が移行前より高くなったとき、「人件費削減のために給与の高い社員(=貢献度の高い社員)を解雇しよう」などと誤った判断をしてしまう危険性があります。
成果主義導入の目的は、成果を出さず、会社に貢献しない社員に対して不必要に支払っていた人件費を、成果を出せる社員へ再分配できるようにするためであると捉える考え方がおすすめです。
ポイント4|賃金体系の設定は具体的に
成果主義における賃金体系については、年棒制、基本給、歩合や賞与など事前に細く設定しておく必要があります。
賃金の金額や決定方法は、労働者の生活を守る上で重要な労働条件の1つであるため、雇用契約書や労働条件通知書を作成して、入社時に明示する必要があります。
ポイント5|評価制度の明確化が必要
評価制度は、会社と社員にとって非常に重要です。
年功序列制度の場合には、年齢や勤続年数という数値的な評価基準がありますが、成果主義の場合には評価基準である成果については抽象的ではっきりしません。そのため会社が何を成果と考えるか、事前に社員に明示する必要があります。
賃金制度が具体的に決まったら、就業規則や賃金規程に評価制度を記載するのがおすすめです。また、評価制度の正しい運用のため、評価者の教育・研修も必要となってきます。
有名企業における成果主義導入の成功例
他企業の成果主義導入事例を検討することで、自社への成果主義導入の参考にすることができます。
ここでは、有名企業における成果主義導入の成功例をいくつかご紹介させていただきます。
導入例1|ユニクロ
ユニクロは、世界に通用するアパレル企業を目指して、性別や年齢に関係なく実力がある者が正当に評価される完全実力主義・成果主義の人事制度を採用しています。
2020年春から採用予定の新人事制度では、実力があれば、入社後3~5年での経営幹部昇進も可能という徹底ぶりです。
評価制度が明確で、出世をするための水準が明示されており、社員への正確なフィードバックもされることから、社員の働くモチベーションの上昇に繋がっています。
導入例2|ソフトバンク
ソフトバンクは、成果を上げた社員に報いることを会社の基本ポリシーにしており、実力主義が社風となっています。
年齢や性別に関係ない正当な人事評価が実施され、若手でも管理職に昇進できたり、積極的に発案する社員やモチベーションの高い社員を厚遇したりすることが特徴です。
一般的に組織的でコミュニケーション能力を重視する企業が多い中で、ソフトバンクは個人的な能力が評価に反映されるシステムを採用しています。
まとめ 自社に合った人事制度を導入しましょう
日本では長く年功序列の人事制度・慣習が用いられてきましたが、近年では成果主義を取り入れている企業も増えています。しかし、双方にはメリット・デメリットがあり、一概にどちらが良いとは断言できません。
重要なことは、自社にはどのような人事制度が合っているのかについて、慎重に検討することです。
どんなにテクノロジーが進化し、AI導入などによって世の中が変わっても、企業の中で人が行う経済活動の根幹を支えているのは人事制度です。
年功序列や成果主義のメリット・デメリットを理解して、自社に合った人事制度を採用することにより、企業・社員双方にとってメリットのある職場環境をつくっていきましょう。
また、どのような人事制度をとっている場合でも、企業の事業を継続して安定させるのに大切なのは、採用活動の強化だと考えられます。
最新の学生・企業の市場動向を知りたい採用担当者の方は、こちらの資料をご覧ください。今後の採用活動に役立てていただけたら幸いです。