ツキって何? あきらめずにまず「ひとつ」を得よう

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■最終面接は、「タイミング」や「相性」にも支配される

 4月になって、いよいよ就活も本番になります。日本経団連が中心になって定めた「倫理憲章」では、「卒業学年に達しない学生に対して、面接など実質的な選考活動を行うことは厳に慎む」という一文が盛り込まれています。このこともあって、卒業年になる4月1日から、一気に採用活動が進み出すのです。読者の中には、今週にも最終面接を控えている人がいるかもしれません。

 娘の就活の本を書くときに、数人の採用の責任者に話を聞いたことがありました。彼らの口から「タイミング」「縁」「偶然」や「相性」「フィーリング」などの言葉が出てくるのを知って、今も昔も面接は変わっていないのだと実感したことを思い出します。今回は、最終面接がタイミングや相性などによって左右されるということと、それに対する学生側の対処法について少し考えてみたいと思います。

 「タイミング」という意味では、採用枠に余裕があるときと、内々定者でほぼ埋まっているときでは、採用側の姿勢は相当異なってきます。もちろん「採用可」と判断する基準も変わります。また終盤になって内々定予定者の辞退が相次いだりすると(これは現実よく起こることなのです)、血眼になって面接の対象者を探すことがあります。

 「相性」「フィーリング」になると説明しづらくなります。「相性」というとなにかいい加減に思われるかも知れませんが決定的な要素になることが少なくありません。

 当時私が採用したN君は、いまやバリバリの課長職ですが、彼は「私は楠木さんではなくて、現在部長のAさんが採用責任者であれば、この会社に入社していなかった」と言い、社内結婚した妻とも出会っていないと話していました。まさにご縁なのです。

 また同じ業界の会社の中でも、社風の違いといいますか社員の持つ雰囲気が相当異なっていることがあります。この理由の1つには、「うちの会社はこういう感じの人を好む」という先入観に近いものが採用の担当者の中にもあるようです。判断するのは、その会社で日々過ごしている社員ですので、そういう社風との相性も見逃せません。

 このように考えてくると、採用には、学生、企業双方とも自分の力では、どうにもならない要素に左右される面があります。それでも採用を担当するメンバーの多くは、真摯にかつ懸命に取り組んでいます。それは私の長年の経験からも間違いありません。会社にとっての採用の重要性を意識しているからだと思います。それに加えて、就活生の真剣なまなざしが、採用する側の姿勢を正しているのです。

■学生側がやれること

 この文章を読んでいる人の中には、ただでさえ面接の先行きが見えずに不安なのに、不確定な要素に支配されると言われてもどうしようもないと思う人もいるでしょう。たしかに就活は努力すれば必ず結果が出るといった類のものではありません。どうにもならない事柄に支配されているのは間違いないのです。しかしながら、そういう制約のある中でも、この不確定な要素に対処するポイントを私なりになんとか整理すると下記のとおりです。

(1)1つの事柄や自分の決断に固執しすぎない

 就職や結婚などの未知の世界に行く時には、条件をつけたり、自分が決めたことにこだわりすぎると、うまくいかないことが多いと思います。婚活の場合、「年齢は30歳まで」「親との同居はいや」「タバコを吸う人はだめ」と相手の条件を厳しくし過ぎると人に出会えるチャンスを失います。

 就活でも「絶対にこの業界でないとダメ」「サービス業はいや」など、1つの事柄や自分の決断に固執しすぎない方がいいと思います。想定外の状況が生じた時に、身動きが取りにくいし、偶然に飛び込んでくるチャンスをモノにできない恐れがあるからです。

(2)自分の目先を変える工夫をする

 これは、(1)を具体化したものです。チャンスを待つには、常に目先を変えてフットワークを軽くする工夫をしていたほうがいいでしょう。身の回りの小さなことで非日常的な経験をすることも大事だと思います。たとえば、部屋の整理整頓をしてみるとか、長く会っていない人に手紙を書く、普段の付き合いから少し離れた恩師や先輩に相談することでツキが変わるかもしれません。調子の波に乗っている人と出会うとフットワークは軽くなります。

(3)数多く面接を受ける

 面接が偶然の要素に支配されているのであれば、確率を上げるためには打席に多く立つことが意味を持ちます。就活は本当に疲れるでしょう。でも自らが実際に動かなければ始まらないのが現実です。

(4)内々定を得ること

 ふざけるな、といわれるかもしれませんが、これは事実なのです。1社内々定を得ると、気分的に落ち着いて自然体で面接に臨むことができます。その効果はどんな精神訓話よりも力を持ちます。また他社で内々定を得ていると聞くと、面接する側も少し身を乗り出して相手をみます。

 志望度は高くなくても、まずひとつ内々定を得ることを考慮に入れてもいいでしょう。私の娘も10数社連続して不合格の後に、1社内々定が出ると続けて3社の内々定を得ました。ツキはツキを呼ぶのです。

 自分に引きなおしてヒントになるかどうかを検討いただければ幸いです。

「asahi.com(朝日新聞社)の就活朝日2011」での連載を一部加筆

筆者プロフィール

楠木新(くすのき・あらた)

1954年(昭和29年)、神戸市生まれ。京都大学法学部卒業後、大手企業に勤務し、人事・労務関係を中心に、企画、営業、支社長等を歴任。勤務の傍ら、大学で非常勤講師をつとめている。
朝日新聞be(土曜版)にコラム「こころの定年」を1年あまり連載。07年10月から08年5月までダイヤモンド社のウェブサイトで娘の就職活動をリアルタイムに追ったドキュメント「父と娘の就職日誌」を掲載。
著書に「就職に勝つ! わが子を失敗させない『会社選び』」「就活の勘違い」など。

楠木新さんの主な著書

就職に勝つ!わが子を失敗させない「会社選び」(ダイヤモンド社)
就活の勘違い 採用責任者の本音を明かす (朝日新書)