要員計画とは?作り方のステップと失敗事例に共通するパターンを解説
経営計画や戦略の達成に直結し、人事業務のなかでも特に重要性の高い「要員計画」の策定。「採用計画は立てているものの、要員計画まで細かく策定していない」「要員計画の立て方がいまいち分からない」という採用・人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、要員計画の定義や類語との違いといった基礎知識から、要員計画の立て方や成功させるためのポイントまで、詳しく解説していきます。
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目次
要員計画とは?
まずは、要員計画の基礎知識について解説します。
要員計画の定義
要員計画とは、企業が経営計画の達成を目的として、必要な人材の確保や的確な人員配置を計画することを指します。
具体的には、以下の3つについての計画を含みます。
- 新規採用を行う
- 人事異動・人員整理によって、より的確な人員配置を実現する
- 社員の能力開発・教育を行う
これらを実行することにより、企業の経営計画を推進し、業務の生産性と社員エンゲージメントを高める人員構成にすることが、要員計画の意義です。
要員計画の目的
要員計画を立てる主な目的としては、次の4つが挙げられます。
- 経営層・人事・現場の3者間で採用ターゲット像や人事計画の方向性を一致させる
- 求人広告媒体や自社採用サイトに掲載する求人原稿を書く際に、一貫したストーリーがあり、求める人物像がはっきりした求人を作成する
- 採用に関して統一性のある方針を定め、明確な採用基準を設定することで、面接や選考の精度を高める
- どの部署でどのくらいの要員が必要なのか、全社のニーズを把握し、既存社員の配置換えをスムーズにする
このように、採用の方針やアクションを統一し効果的な施策につなげることが要員計画の主な目的です。
要員計画が必要とされる背景
要員計画が必要とされる背景は、大きく分けて2つあります。
1つ目は、少子高齢化の急速な進行により、労働力人口が不足し始めていることです。長らく採用売り手市場が続いており、多くの企業が自社にマッチする人材の確保に奔走しています。2020年と2060年を比較すると4割の生産年齢人口が減少すると予測され、引き続き採用難が続く見通しです。そのため、社内人材の特性を正確に把握し、戦略的な要員計画・確保や能力開発に取り組む必要が高まっています。
参考:https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
また、ITの進化や市場のグローバル化に伴いビジネスシーンが急速に変化するようになったことも一因です。先の読めない時代のなかでも自社の優位性を保つため、人材の多様性を高めて柔軟な組織づくりに注力する企業が増えたなかで、要員計画にも注目が集まっています。
要員計画と人員計画・採用計画との違い
要員計画と混同されやすい用語に「人員計画」と「採用計画」があります。ここでは、その違いについて解説します。
要員計画と人員計画の違い
人員計画とは、人材の「質」に着目して具体的な配置を計画することです。経営計画をもとに「この部署がミッションを達成するためには、どのような人材が必要か」「この職種に適しているのはどのような特性の人材か」など、長期的な視点を持って求める人材を決定していきます。
一方、要員計画では経営方針などをもとに「どこに何人必要か」など、「量」に着目して人員を充足させる計画です。より大きな概念であり、人員計画のベースになるものと考えられます。
要員計画と採用計画の違い
採用計画は、要員計画によって必要な人材の要件や人数が定まった後に、その人材を具体的にどのように採用するかについての計画です。そのため、全く別のものというよりも、採用計画は要員計画を実現する位置づけだといえます。
採用計画で決めるのは「どのような採用媒体や選考方法を使うか」「誰が担当するか」といった具体的な計画です。要員計画を作成していない場合は「どのような人材か」といった求める人材の要件を明確にすることも含みます。
要員計画を立てるメリット
要員計画を立てる主なメリットを3つ紹介します。
必要な人員数の充足
1つ目のメリットとして、要員計画は現場の意見を取り入れながら策定するため、現場が必要としている人材をギャップなく確保しやすい点が挙げられます。
経営層や人事部が主導して採用活動を行うと、現場の求める人材との食い違いが起こりがちです。業務に必要な知識やスキルが足りない人材を採用してしまったり、育成コストのかかる人材を配置したりしていては、新しい人材を採用・配置しても、かえって現場のパフォーマンスを下げてしまうかもしれません。
要員計画を立てて、現場との認識を合わせることで、必要な人員を過不足なく採用・配置できるようになります。
経営目標に必要な人材の採用
人員の採用や配置は、経営計画や事業目標と連動させることが大切です。事業規模の拡大や新市場への進出など、経営の方向性によって必要な人員数や要件は異なります。要員計画があると、経営目標に合わせて採用や配置をコントロールしやすくなり、経営と現場の橋渡しができるようになるのです。
また、人材はすぐに育たないため、中長期の計画に合わせて人材を確保するには、継続的に人材を採用・育成し続けなくてはなりません。経営目標の達成から逆算して「いつまでに、どのような人材が、何人いればよいのか」を要員計画に落とし込むことで、中長期的な人材開発や育成を行えるようになります。
人事業務のブラッシュアップ
要員計画は、採用や人員配置、育成などの人事関連業務をブラッシュアップする際にも役立ちます。
人事関連施策の達成度を確認するためには、事前に計画と成果指標を設定することが重要です。計画があれば、実行した結果との間にどのくらいのズレがあったのか確認でき、PDCAサイクルが確立します。まずは要員計画を立てて、進捗確認を行い、結果を見て改善活動を行うと、より精度の高い採用や人員配置ができるようになります。
要員計画の作り方
ここからは、要員計画の作り方について流れに沿って解説します。
要員計画は表にまとめると見やすく、さらに進捗の管理が容易です。人事ZINEでは、必要項目を入力すると、配員人数が自動算出される「要員計画表テンプレート」をご用意しました。必要な項目が記載されているため、初めての方でも使いやすいExcelフォーマットです。ぜひご活用ください。
自社の現状把握
まずは、自社の人材について現状を把握します。
現在の在籍人数を部署・職種ごとに把握するほか、採用予定や想定される離職率から将来の想定人数も算出しましょう。経営計画に合わせて1年後・5年後など必要な年数分をシミュレーションします。
要員計画を立てるには、人数だけではなく「どのような人材が在籍しているのか」も重要です。役職や年代、経験業務、経験年数などに加えて、特に重視するスキルや資格がある場合にはこれらも合わせて把握しましょう。
要員計画において、人数だけではなく予算も計画する場合は、社員の給与や福利厚生費、雇用・採用コストなども把握します。その際、実際の給与ではなく、役職や勤務年数などにより等級を分けて把握すると、人数が増減した場合の人件費がシミュレーションしやすくなります。
ボトムアップ方式による要員調査
必要な人材の質と量を把握するための方法として、ボトムアップ方式による要員調査があります。
ボトムアップ方式による要員調査は、各部署へのヒアリングによって必要な人材の要件や業務内容・業務量を把握し、そこから要員数を算出する方法です。通常時だけではなく、繁忙期や予定されている新規プロジェクトなどについてもヒアリングすることで現実に即した要員数を算出できます。
なおボトムアップ方式による要員調査では、実際の業務に詳しい現場の声を要員計画に反映できる一方、現場の希望にもとづく意見を受ける場合もあり、妥当性を適宜判断する必要があります。
トップダウン方式による要員調査
トップダウン方式による要員調査は、経営計画や事業戦略の内容から考え、それを達成するために必要な要員数を算出する方法です。
経営計画などは収支に関する計画も伴うため人件費や採用コストがどの程度かけられるかが明確な反面、実際の業務をこなすために必要な人数とかけ離れてしまう恐れがあります。
ボトムアップ方式とトップダウン方式という対照的な調査方法がありますが、どちらも判明する内容に偏りがあります。適正な要員数を算出するためには、ボトムアップ方式とトップダウン方式の両方を行い、業務量や収支などをバランスよく考慮するとよいでしょう。
具体的な採用計画の検討
自社の現状と要員調査により判明した要員数を把握したところで、具体的な採用計画の検討に入ります。
ただし、人材が不足している部署があるからといって、必ず新規採用が必要なわけではありません。新規採用人数を決定する前に、異動や昇格による配置変えも検討しましょう。人材に余剰がある部署からの異動で補える場合や、適性のある部署に異動させることで活躍が期待できる社員がいる場合があります。
新規採用人数を決定したら、採用方法も検討しましょう。求める人材の要件が新卒採用と中途採用のどちらが向いているかの判断材料になります。また、十分な応募者を集めるために、採用市場の動向や応募者のニーズなどを加味して、有効な採用計画を立てましょう。
要員計画書の作成
人材の配置や新規採用人数が決定したら、要員計画書を作成します。要員計画書に決まった様式はありませんが、フォーマットや管理ツールを利用すると効率的です。
新規採用人数の算出根拠を示す際は、部署ごとに現在の在籍数や増減数、要員数などを表にまとめると分かりやすいでしょう。求める人材の要件は部署ごとに別紙にまとめると計画書の承認を得たり、採用活動の方針・施策を決めたりする際に役立ちます。経営者や部署責任者に要員計画書の承認を得る際は、これまでに行った社内調査の結果などを資料としてまとめると説得力が増します。
要員計画の失敗事例に共通する3つのパターン
要員計画の遂行において、多くの企業で見られる失敗パターンがあります。ここでは、よくある3つのパターンを紹介します。
予算をオーバーしてしまう
最も多い失敗例が、予算オーバーです。特に、ボトムアップ方式で要員計画を策定すると、市場動向を考慮していなかったり、採用要件が高くなりすぎてしまったりしがちです。現場に必要な人材を充足させるのは大切ですが、要望のままに要員計画を立てては、コストが膨らんでしまいます。
現場の意見を取り入れつつも、市場動向や採用時期を加味して、予算も考慮しながら要員計画を調整することも、採用・人事担当者のミッションです。
計画通り人材を採用できない
いくら現場が「このタイミングで、このような人材を、何人ほしい」と要望を提示してきても、必ず達成できるとは限りません。採用市場は水物であり、どれほど採用活動を頑張ってもターゲットからの応募を得られないことはよくあるものです。また、現場の求める採用要件が高ければ高いほど、採用の難易度も上がります。
要員を満たせないと、プロジェクトの遅延や部署全体の生産性低下につながりかねないため、実現見込みのある計画を策定しなくてはなりません。
退職・休職により要員計画の調整が迫られる
採用や育成がうまくいっていても、予期せぬ退職や休職によって要員計画が狂う場合もあります。
社員の退職や休職は、要員計画を計画通り進めるうえで大きなリスクです。特に、戦力値が高い人材が退職する予兆を見逃してしまうと、要員計画の大幅な調整を迫られるリスクがあり、経営にとっても大きなリスクとなりえます。採用・人事担当者は、日々マネージャーとコミュニケーションを取り、各部署の状態を多角的に把握するようにしましょう。
要員計画を成功させるポイント
失敗パターンを踏まえて、計画通りに要員を充足させるにはどのような点に気をつければよいのでしょうか。要員計画を成功させるポイントを紹介します。
必要な人員の条件を先回りしてキャッチする
ポイントの1つとして、経営者と日頃から今後の戦略やビジョンを共有しておき、必要になりそうな人材の要件を事前に把握しておくことが挙げられます。
全社の経営会議などで各部署の課題や必要な人材の特徴を常にキャッチしておくと、現場がほしいタイミングより少し前倒しであっても、採用市場に要件を満たす人材がいれば、獲得に向けて動き出すこともできます。いざ必要になったタイミングで「市場に条件を満たす人材がおらず、採用できない」という事態が起こりにくくなり、計画進行もスムーズに運ぶでしょう。
退職リスクのある人員をリサーチする
退職や休職のリスクに対応するためには「辞めそうな社員がいる」という情報を現場と共有しておくことが大切です。前述の通り、いざ現場の人員が退職して人が足りなくなってから採用を開始しても、採用市場に条件を満たす人材がいるとは限らず、せっかく立てた要員計画が頓挫してしまいます。
また、「現場と情報を共有してマネージャーに退職しそうな社員のケアを依頼する」「採用・人事担当者自らその社員にアプローチして話を聞く」といった対策も、退職リスクの低減に有効です。
振り返り・見直しをする
要員計画は適切なタイミングで振り返りと見直しをしましょう。
要員計画の目的は経営計画の実行です。「経営計画の進行に役立っているか」「支障が出ていないか」を定期的に振り返ることで改善点が判明し、要員計画をブラッシュアップできます。
要員計画を一度策定しても、「離職率や採用環境の変化などにより計画通りに要員が確保できない」「戦略変更や新規事業により要員数自体が変化する」「採用した人物が想定ほど活躍できていない」という場合もあります。適切なタイミングで見直しをすると、適切な軌道修正や追加施策を行うことが可能です。
このように、進捗や結果を検証して改善を繰り返すことで、より実用的な要員計画を作成するノウハウも蓄積されます。
組織体制に基づいて現実に即した計画を立てる
要員計画を立てる時は、現場の実態を正確に把握し、組織体制に合った計画を立てることも大切です。
一口に「要員」といっても、組織によって求める人材はさまざまです。例えば、新卒採用であれば「部門ごと」「職種ごと」に求める人物像は異なりますし、受け入れ可能な人数も現場の体制によって異なります。さらに、中途採用では正社員・パートタイム・アルバイト・派遣社員といった「雇用区分」や、業務委託などアウトソーシングを含めた「社内・社外」区分の計画も必要です。
経営陣の考える「自社に必要な人物像」を現場に押し付けず、現場の意見も考慮しながらバランスの良い要員計画を立てましょう。
これらをしっかり押さえて、やるべきことを細かく丁寧にこなし、先手で動くことが大切です。
要員計画の策定・運用に使用できるツール
効率的に要員計画の数値を管理し、長期的に運用していくには、計画管理に適したツールを使用するのが大切です。要員計画の策定・運用に適したツールを2つ紹介します。
Excelフォーマット
Excelフォーマットを利用することで、要員計画の策定や運用が容易になります。
企画・計画作りや進捗管理用に用意されているフォーマットを用いれば、「実施期間」「目標数値」「進捗状況」といった、要員計画で扱う項目があらかじめ反映されており、良質な計画管理用のシートをすぐに実務に導入することができます。
人事ZINEでは、必要項目を入力すると配員人数が自動算出される「要員計画表テンプレート」をご用意しました。必要な項目が記載されているため、初めての方でも使いやすいExcelフォーマットです。ぜひご活用ください。
要員計画専用の管理ツール
関連部署が多く、表計算ソフトによる手動管理が難しい場合は、要員計画専用のツールを導入するのがおすすめです。
専用ツールを使うと、社内人材の保有スキルや稼働状況、プロジェクトの実行状況などを見える化でき、リソースを把握したうえで最適な要員計画を策定できます。各部署の人員過不足はシステム上でメンバーとリアルタイムに共有できるため、需要を予測しながら的確に計画を修正することも可能です。
システム導入には、月額費用に加えて初期費用がかかるサービスもあり、予算管理には注意が必要です。無料トライアルが可能なツールもありますので、複数の候補を試しながら検討するとよいでしょう。
まとめ
要員計画は、どのような規模の会社であっても立てるべきです。全社を巻き込んで要員計画を立てると、採用、社内配置、教育が有機的に結びつき、経営計画の達成につながります。
「経営計画→要員計画→採用・配置・教育計画」とスムーズに施策を実行するためには、採用・人事担当者に求められる役割は大きいものです。経営層や現場と密にコミュニケーションを取り、タイムリーに決定的な人事施策が打てるよう備えておきましょう。
本記事では、要員計画の立て方や考え方について解説しました。実際に要員計画を策定する際には、項目を埋めるだけで要員計画が完成するテンプレートが役に立ちます。人事・採用担当者の方は、こちらの「要員計画表テンプレート」をダウンロードして、実務にご活用ください。