労働条件通知書の記入例・項目ごとの書き方を詳しく解説
企業が労働者と新たに雇用契約を結ぶ際には、労働条件に関する定められた内容を記載した「労働条件通知書」という書面を発行する義務があります。
「労働条件通知書」に記載すべき事項には、「絶対的明示記載事項」と「相対的明示記載事項」があり、その違いを理解しておくことは重要です。
本記事では、「労働条件通知書」に必要な記載事項、書き方や記入例を紹介します。
さらに交付時に押さえておくべきポイントや、「雇用契約書」との違い、近年の規制緩和による交付ルールの変化についてもくわしく解説します。
また、労働条件通知書のテンプレート(Word)もダウンロードしていただけますので、ぜひ活用してくださいね。
目次
労働条件通知書とは?
労働基準法の労働条件通知書について、定義と発行する対象者、発行のタイミングを解説します。
労働条件通知書の定義
労働基準法第15条は「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と定めています。そして、これらの労働条件の多くは書面による交付が義務付けられています。
そこで、労働者を採用した際に、労働条件を明示・交付する書類が「労働条件通知書」です。労働条件を雇用契約書に記載し、労働者に契約書を渡す方法もあります。
明示すべき労働条件は、労働基準法および労働基準法施行規則により定められており、明示を怠ると30万円以下の罰金に処せられます。
労働条件通知書を発行する対象者
労働条件通知書を発行する対象者は、「労働契約を締結」した労働者です。正社員に限らず、アルバイトやパートなどの名称に関係なく雇い入れた者全てが対象です。
一方、派遣労働者はあくまで派遣元企業が雇用しているため、派遣先(受入)企業は派遣元企業に条件を提示するのみで「労働条件通知書」は発行しません。
また、請負契約や業務委託契約によって、仕事を任せている場合は雇用関係がないため「労働条件通知書」を発行する必要はありません。ただし、契約名にかかわらず企業から労働者へ直接の指揮命令がある場合は「労働者派遣である」または「雇用関係がある」とされ違法になるため注意が必要です。
労働条件通知書を発行するタイミング
労働条件通知書を発行するタイミングは、「労働契約の締結の際」です。法令では、労働契約から何日以内など具体的な期限は定められていませんが、可能な限り労働契約と同時期の発行が望ましいでしょう。
具体的には次のようなタイミングが考えられます。
- 新規雇用時
- 退職者の再雇用時
- 派遣社員の直接雇用時
労働条件の明示義務は「労働契約の締結の際」とされているため、昇給やボーナスの度に明示する必要はありません。ただし、労働条件が大幅に変更される場合には、確認の意味を込めて「労働条件通知書」を発行するケースもあります。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
新たに労働者を雇用する場合には「労働条件通知書」と「雇用契約書」の両方を作成して本人に確認してもらうのが一般的です。「労働条件通知書」と「雇用契約書」に記載される内容は非常に似ていますが、大きな違いは以下の3点です。
- 根拠となる法律
- 義務か任意か
- 契約か通知か
ではそれぞれ詳しく解説いたします。
1.根拠となる法律
「労働条件通知書」と「雇用契約書」では、その根拠となる法律が異なります。「労働条件通知書」は「労働者を採用するときには労働条件を明示しなければならない」と労働基準法で定められ、原則書面で交付することが義務づけられています。
一方、「雇用契約書」は民法第623条に基づいて、雇用主となる企業と雇用される従業員の間で雇用契約が結ばれたことを証明する書面です。
しかし民法第623条では「雇用は当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」と定められており、双方が契約の意思を示すことで効力を発し書類の発行までは求めていません。
ただし労働契約法では「労働契約の内容について、できる限り書面によって確認するものとする」と定められています。
2.義務か任意か
「使用者が労働者を採用するときは、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません」と労働条件通知書の作成は労働基準法により義務づけられています。違反した場合には、30万円以下の罰金刑が科されます。
一方、雇用契約書は「できる限り書面で確認する」と労働契約法で定められており、契約書の作成は任意であり罰則などはありません。
3.契約か通知か
「労働条件通知書」と「雇用契約書」は企業と従業員との合意をどのように表すかという点が異なります。
「労働条件通知書」は企業が従業員となる人に対して、賃金や労働時間などの労働条件を明示する書面です。言い換えれば、企業から従業員に対して一方的に行われます。
「雇用契約書」は企業と従業員の合意による契約であり、契約書の規則に沿って書面が2部作成され、企業と従業員が署名捺印をして保管します。
労働条件通知書に明示すべき記載事項
労働条件通知書に明示すべき記載事項には次の2種類があります。
- 絶対的明示記載事項(必ず明示しなければならない事項)
- 相対的明示記載事項(定めをした場合に明示しなければならない事項)
どのような記載事項があるのか、具体的に見ていきましょう。
1.絶対的明示記載事項(必ず明示しなければならない事項)
労働者を採用する際に、以下の7つの労働条件は必ず明示しなければなりません。
そして、下記の7つに関する内容は原則、書面で交付しなければなりません。ただし労働者が希望した場合には、書面として印刷できるFAXやメールなどで交付することができます。
- 契約期間に関すること
- 期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
- 就業場所、従事する業務に関すること
- 始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
- 賃⾦の決定⽅法、⽀払時期などに関すること
- 退職に関すること(解雇の事由を含む)
- 昇給に関すること
2.相対的明示記載事項(定めをした場合に明示しなければならない事項)
以下の事項は労働条件として、定めをした場合には明示する必要があります。
- 退職手当に関すること
- 賞与などに関すること
- 食費、作業用品などの負担に関すること
- 安全衛生に関すること
- 職業訓練に関すること
- 災害補償などに関すること
- 表彰や制裁に関すること
- 休職に関すること
労働条件通知書の記入例
「労働条件通知書に記入すべき項目が分からない」という方のために、人事ZINEでは労働条件通知書のテンプレートをWordファイル形式でご用意しています。
厚生労働省の書式をベースに、企業と内定者の双方が納得するための3つのチェックポイントも紹介しております。以下の重要項目も押さえているので、ぜひご活用ください。
記入すべき重要項目を解説
厚生労働省が公開している労働条件通知書に沿って、記入すべき重要項目について解説します。令和6年4月から労働条件明示のルール改正が適用されているので注意してください。
契約期間
契約期間について、期間の定めがない場合は「期間の定めなし」とし、この欄での記載は終わりです。試用期間を設ける場合には「試用期間あり」とし、期間を明示しましょう。
契約期間の定めがある場合は「期間の定めあり」とし、年月日を明確にして契約期間を記載します。この場合には、契約の更新の有無について「自動的に更新する」「更新する場合があり得る」「契約の更新はしない」といった内容から該当するものを記載します。
次に、「勤務成績、態度」「能力」「会社の経営状況」といった契約更新の判断基準のうち、該当するものを記載しましょう。
最後に、更新上限の有無を記載し、上限がある場合は更新回数または通算契約期間を記載します。更新上限を新設または短縮する場合は、あらかじめ有期契約労働者にあらかじめ説明する必要があります。
【有期契約の場合】無期転換権
通算契約期間が5年を超える有期契約労働者に対しては、期間の定めのない労働契約に変更する権利が発生します(労働契約法第18条)。これを無期転換権と呼びます。該当する有期契約労働者に無期転換権が発生している場合には、申し込む機会があることを明示しなければなりません。
同時に、無期転換後の労働条件も明示します。この際、他の正社員等とのバランスを考慮した事項(業務の内容や責任の程度など)について説明するよう努める必要があります。
就業の場所
雇入れ直後の就業場所に加えて、変更の可能性がある場合はその変更の範囲を記載します。変更がない場合は「変更なし」と記載しましょう。
既存の支社や支店への異動が考えられる場合には、可能性のある場所を記載します。店舗や営業所の新設が想定される場合には、具体的な住所は記載せず会社指定の就業場所と記載し、変更の可能性があることを明示しましょう。
従事すべき業務の内容
雇入れ直後の業務内容に加えて、変更の可能性がある場合はその変更の範囲を記載します。変更がない場合は「変更なし」と記載しましょう。
将来の配置転換などにより、業務内容の変更が想定される場合には、可能性のある業務内容を記載します。新規分野の参入などが想定される場合には、「配置転換あり」または「異動により業務内容に変更あり」と記載し、変更の可能性があることを明示しましょう。
始業・終業の時刻等
「始業 9時 30分 終業 18時 00分」と具体的な時間を記載します。休憩時間や所定時間外労働の有無についての記載も必要です。変形労働時間制・フレックスタイム制・裁量労働制がある場合は、こちらにご注意ください。
- 変形労働時間制:適用する種類(1年単位もしくは1カ月単位など)を明示。原則として労働する時間の記載が必要。交代制でない場合は「・交代制」を二重線で消す。
- フレックスタイム制:フレキシブルタイム・コアタイムにくわえ月の所定労働時刻の記入が必要。
- 変形労働時間制やフレックスタイム制は、週の労働時間を平均40時間にする。特例措置事業所は44時間。
- 労使協定が必要な裁量労働制と事業場外みなし労働時間制は協定内容を当該労働者に説明する。
休日・休暇
「当社カレンダーによる」で問題ありません。ただ、以下に注意して休日・休暇を設ける必要があります。
- 休日は1週間で1日以上か4週で4日以上必要。
- 1年単位の変形労働時間制を採用している企業は、年間休日を記載する必要がある。
- 労働者が6ヶ月継続勤務した場合は、年10日の有給休暇を与えなくてはいけない(パート勤務の場合にも勤務日数に応じた有給休暇を与える義務がある)。
- 勤務6ヶ月未満で有給休暇を付与する場合は、条件を明示。
例)〇ケ月経過で△日付与、など
賃金
基本給は月給や日給、時間給など賃金体系の実情に沿うものを記載します。交通手当、家族手当など各種手当が定められている場合は金額と計算方法を記載してください。基本給は各都道府県の最低賃金を下回らないよう注意が必要です。
所定時間外、休日または深夜労働に対しての割増賃金を定めている場合は記載します。これも法定割合を下回らないよう注意してください。このほか賃金の締切日や支払日、支払方法の記載も必要です。支払方法は「本人名義の銀行口座に振込」といった内容を記載します。
パートタイム・有期雇用労働者については、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」といった労働条件を書面によって交付する義務があるので、これらも記載しましょう。
退職に関する事項
退職および解雇に関する労働条件も記載する必要があります。
退職願の提出時期といった自己都合による退職手続きのほか、解雇に該当する事由や手続きも記載します。試用期間を設けている場合、本採用の拒否事由も記載することで後のトラブル回避にもつながります。
退職に関しては、定年制の有無も記載します。定年制度がある場合には年齢を記載し、さらに継続雇用制度や業務委託先として創業を支援する創業支援等措置といった退職後の関わり方の定めがあればその内容を記載します。
記載事項が多い場合、「詳細は就業規則第〇条による」と記載することも可能です。
その他
その他の記載すべき重要事項として「雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」があります。パートタイム・有期雇用労働法により、パートタイム・有期雇用労働者に対して書面による明示・交付が義務付けられています。相談窓口となる部署や担当者名、連絡先を記載しましょう。
労働条件通知書は自社の魅力的な制度をアピールし、労働者に安心して働いてもらうためのツールでもあります。各種保険の加入や保養施設の利用、災害補償といった福利厚生や教育訓練制度を記載することで就業意欲の向上が期待できます。
労働条件通知書の保存期間について
労働基準法により、労働条件通知書や雇用契約書といった雇入れに関する書類は5年間の保存が義務付けられています(労働基準法第109条)。
また、労働基準法施行規則により、起算日は退職や解雇などにより労働契約が終了した日です。入社日ではないことに注意してください(労働基準法施行規則第56条3項)。保存方法は書面または電磁的記録の2通りがあります。
上記の保存に関するルールは労働法関連のものであり、税法では電子取引データの保存に関して別のルールがあります。雇用契約書や労働条件通知書は費用の根拠となる内容のため、これらをメールやクラウドサービスを利用してやりとりした場合には電子取引に該当します。この場合、電子取引データを電子帳簿保存法に沿った方法で保存する必要があり、保存期間も異なるため税法上の確認が必要です。
労働条件通知書の規制緩和による変更点
これまで労働条件通知書は書面での交付が義務づけられていましたが、2019年4月の法改正にともない電磁的方法での交付も可能になりました。ペーパーレス化という規制緩和にともない、どんな変更点があるのかチェックしましょう。
ファックス・メールでの交付が可能になり効率化
2019年4月からの電磁的方法での交付が可能になりました。具体的には以下2つの方法が認められました。
- ファクシミリ(FAX)を使用しての送付
- 電子メールなど特定者しか受信できない電気通信による送付(当該労働者がメール等の記録を出力することによって書面化できる場合)
働き方改革法で2018年9月7日に交付された省令に基づくものです。労働条件通知書と雇用契約書は兼用できることが多いのに、今までは「雇用契約書は電子署名で行い、労働条件通知書は書面で行う」という手間がかかっていました。本改正にともないこれらの手間が解消されます。
電磁的方法による交付の注意点
電磁的方法による交付の注意点を3点紹介します。
- 労働者がFAXか電子メールでの交付を希望すること
- 受信者を特定して情報伝達ができる電気通信を利用すること
- 労働者が当該電子メールの記録を出力して書面化できること
1は大前提で、労働者が希望していないと電磁的方法による交付ができません。2は、誰でもアクセスできるようなところにアップロードすることは認められないということです。3について、印刷できないファイル形式で送ることは考えにくいですが、印刷可能な状態にして送付する必要があるということです。
入社手続きもクラウド化
労働条件通知書の電磁的方法が認められたことによって、労働者が同意すれば入社手続きを完全ペーパーレス化することが可能になりました。
▼ すでに電磁的方法が認められている書類例
- 雇用契約書
- 扶養控除等(異動)申告書
- マイナンバーや雇用保険被保険者番号の回収(社会保険や雇用保険の資格取得のために必要)
労働条件通知書のみ、書面での交付が義務付けられていましたが、2019年4月からペーパーレス化を実現しました。これによって、入社手続きはクラウド上のやり取りで完結します。
まとめ
採用時に労働条件を明示することは、労働基準法によって定められた義務です。違反すると罰金刑が科せられます。さらには、従業員とのトラブルに発展する可能性があるだけでなく、企業の社会的信用を失うことにもなりかねません。
新卒者を採用する際には、内定時に「労働条件通知書」を発行するのが一般的です。採用担当者は内定者に自社の労働条件を加味した「労働条件通知書」を必ず渡しましょう。
労働条件通知書には契約内容の確認という側面があります。記載を誤った場合でも、法的に有効なものとして扱われるため、正確に記載しましょう。
人事ZINEでは、労働条件通知書のサンプルをご用意しました。Wordファイルでダウンロードしてすぐに利用でき、企業と労働者の双方が納得するための3つのチェックポイントも紹介しています。ぜひご活用ください。