内定者の入社前健康診断とは?取り消しが認められる事例やポイント
「雇入健診との違いは?」「内定取り消しは認められるの?」「既往症歴は聞いてもいいの?」など内定者への健康診断の対応で悩んでいる人事担当者もいるのではないでしょうか?
募集職種に対する適正性があるかの判断のために、限定された範囲で採用選考時において健康診断結果を求めることができますが、就職差別につながるような対応は認められていません。
ここでは、内定者に対する健康診断の種類や制度の内容をわかりやすく説明するとともに、健康診断の結果によって内定取消しが認められる場合や既往症を聞くリスク、人事が気をつけたいポイントなどを説明します。
また、人事担当者なら知っておきたい内定者フォローのポイントをまとめた資料もご用意しています。本記事とあわせて、ダウンロードしてご活用ください。
目次
内定者に対する健康診断とは
内定者に対する健康診断は、採用選考時と雇入時の2通りがありますが、ここでは、それぞれの内容と違いを説明します。
雇入時の健康診断
常時雇用する従業員を雇い入れた場合は、労働安全衛生法第66条により、年齢に拘わらず、該当するすべての項目について診断を実施することを義務付けています。ただし、雇入れ3カ月以内に「雇入れ時の健康診断項目」のすべての健康診断を実施し、その結果を証明する書面を提出したときはその限りでないと定めています。(労働安全衛生規則第43条)
つまり、雇入時の健康診断は、雇入れの3カ月前までの間に行った健康診断、または雇入れ後健康診断のいずれでも可能となります。
なお、雇入時の健康診断は、従業員の適正配置、入社後の健康管理に役立てるために実施するのであって、採用選考時に実施することを義務付けたものではなく、応募者の採否を決定するものではないことに十分に留意してください。
採用選考時の健康診断
採用選考時の健康診断は、場合によって健康状態が募集業種、職種に対する適性を判断する必要がある場合に実施しますが、血液検査等の健康診断は、応募者の適性を判断するうえで、必要のない項目を把握する可能性があります。
そのため、職種に関係なく、採用選考時の健康診断書を一律に提出させることは控えるべきです。
提出を求める場合であっても必要性を十分に検討し、合理的・客観的に妥当な場合のみとするとともに、応募者本人に必要性を説明し、同意を得た場合に対応することが求められます。また、業務に関係のない項目が記載された健康診断書の提出を求めないよう厚生労働省では指導しています。
また、厚生労働省では、次のような場合は、合理的・客観的に妥当であると考えられると説明しています。
- 運転・配送業務の求人の際、失神等の発作が生じないか確認
- アレルギー物質を取り扱う業務において、アトピー性皮膚炎などアレルギー症状を確認
このようなことから、採用選考時に健康診断書を求めることができるケースは極めて限定的と考えるべきです。
健康診断の内容
労働安全衛生規則では、常時雇用する従業員を雇い入れた場合、医師による健康診断を必ず実施することと定めています。ここでは、雇入時の健康診断の項目を説明します。
健康診断の項目
労働安全衛生規則第43条では、常時雇用する従業員における雇入時の健康診断項目として、次のとおり定めています。
・雇入時の健康診断項目
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 尿検査
- 心電図検査
なお、実施義務者は事業者であることから、健康診断費用も事業者が負担すべきものとなります。
内定取り消しが認められる例
過去の判例上、企業が内定を出し、応募者から誓約書を受理した時点で、企業と内定者の間で雇用契約が成立したと扱われることが通常であり、特別な事情がない限り内定の取り消しが認められないことが原則です。ここでは、例外的に内定を取り消すことができる条件とともに、内定取り消しが認められる例を説明します。
内定を取り消すことができる条件
企業が内定を出し、誓約書を受け取った時点で企業と内定者の間で雇用契約が成立したと解されます。この雇用契約は「解約留保権付労働契約」といい、就労までの間、内定時に提出させる「誓約書上の内定取消事由」に基づく解約権が行使される可能性がある契約です。
つまり、企業が応募者に内定通知を発し、応募者が内定取消条件に同意する旨の誓約書を提出した段階で解約留保権付労働契約が成立し、内定取消事由が生じた際には、企業から解約することが可能です。ただし、みだりに契約の解約権を行使することは許されません。
なお、内定を取り消しできる条件として、判例上、「採用内定当時知ることができない、または知ることが期待できないような事実を認知したこと」を理由に内定を取り消すことが解約権という権利である目的に照らして、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と認められる場合に限られるとしています。
(労働政策研究・研修機構「採用内定取消 雇用関係紛争判例集」参考)
内定取り消し問題は訴訟に発展する可能性もあるため、判断する必要が生じた場合は、顧問弁護士などに相談することをお勧めします。
健康診断の結果の場合
内定取消事由は、通常、誓約書等に記載したものを内定者より提出させますが、この誓約書等に、仮に「健康診断の結果に異常があった場合」と記載してあったとしても、異常の度合いに関係なく内定取り消しをすることは認められません。
健康診断の結果の場合は、必要な職種に対し、合理的・客観的に妥当な場合に限り、厚生労働省が示した次のような健康診断項目に対して取り消しが認められると考えられます。
- 運転・配送業務の求人の際、失神等の発作が生じないか確認
- アレルギー物質を取り扱う業務において、アトピー性皮膚炎などアレルギー症状を確認
会社が求める労務提供が不可能の場合
内定取消事由として、「病気・事故により、勤務に堪えられないとき」といった記載をしていることが一般的です。判例においても「知ることが期待できないような事実を認知したこと」の条件に当てはまると考えられますので、この場合は、認められる可能性が高いと考えられます。
ただし、想定していた職種では労務提供が不可能であっても、他部門であれば労務提供が可能な場合は、この限りではありません。
健康状態が悪化する危険がある場合
「採用内定当時知ることができない、または知ることが期待できないような事実を認知したこと」のいずれも当てはまる可能性がありますが、持病等が労務提供により悪化することが見込まれる場合は、安全配慮義務の観点から、内定取り消しが認められる可能性があります。
ただし、「会社が求める労務提供が不可能の場合」と同様に、想定していた職種では健康状態が悪化する危険があったとしても、他部門であれば問題ない場合は、この限りではありません。
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資料ダウンロードうつ病に関する注意点
うつ病は、健康診断で診断できる項目でないことから、入社後にうつ病であったことが発覚するケースがあります。ここでは、うつ病の既往歴を聴くリスクや応募者からの申告義務について説明します。
うつ病の既往歴を聞くリスク
うつ病などの精神疾患の既往歴を聞くことは、就職差別につながる可能性があることから、不適切な質問とみなされる可能性が高いと考えられます。
そのため、不都合があったら答えなくても良いと応募者側に伝えたとしても、応募者からは実質的に回答義務を迫られていると解釈されてしまうため、うつ病等の精神疾患の既往歴を聞くことは避けるべきです。
業務上、うつ病などの精神疾患では業務に堪えることができない等と考えられる場合は、産業医にその適正性を相談することをお勧めします。
応募者からの申告義務は?
応募者からは、原則、企業から聞かれた項目以外の申告義務はありません。うつ病等の精神疾患については、基本的に企業から既往歴を聞くことはできませんので、うつ病等の精神疾患を入社前に確認することは難しいといえます。
人事が気を付けたい主なポイント
内定健康診断に関して、これまで説明した内容も含めて人事が気を付けたい主なポイントを解説しますので、参考にしてください。
1.面接/選考時
- 就職差別にならないよう、うつ病などの精神疾患の既往歴は聞かない。
- 採用選考時に健康診断書を提出させる場合は、目的を説明したうえで、業務上、判断が必要な項目のみ提出を求める。とくに、就職差別につながりやすい血液検査は対象外とする。
- 既往症の確認は、安全配慮義務の観点から、業務に関係する内容に限る。
- 職種に関係なく、採用選考時の健康診断書を一律に提出させることは控える。
2.内定出し後
- 雇入時の健康診断書を入社前に提出を求める場合は、必ず入社より3カ月以内に実施したものを対象にし、費用は企業負担とする。
- 内定取り消しについて健康診断の結果の場合等で判断する場合は、産業医に適正性を判断を求めるとともに、取り消す必要が生じた際は、顧問弁護士に相談する。
- 自社が準備している誓約書等に記載の内定取消事由は、一般的に記載されている事項が網羅されているかを再確認する。
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内定者に関する健康診断の内容や法律の定め、健康診断の項目のほか、内定取り消しの条件、うつ病に関する注意点、人事が気を付けたいポイント等を解説しました。
企業が内定を出し、内定取消事由を定めた誓約書を内定者から受け取った時点で「解約留保権付労働契約」が企業と内定者の間で成立しますので、内定取り消し行為は特別な事情がない限り認めらないといえます。
また、うつ病の精神疾患の既往歴を聞くことについては、就職差別につながる可能性が高いことから避けるべきであることもお伝えましたが、人事としては、ダイバーシティ推進の観点から、精神疾患の方の採用をさけるという風潮を正していくことも重要な役割です。
本記事を参考に、内定者に対する健康診断の理解を深め、誤った運用によって違法にならないようにするなど健康診断に関するトラブルを防ぎましょう!
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