入社前研修は何をする?目的や内容の事例、実施のポイント3つを解説
新卒採用では、学生の内定承諾から実際の入社までに期間があくケースが多くあります。入社前研修はこの期間に内定者フォローの一環として行うものですが、実際に企画しようとすると、いつどのような内容で行うべきか、悩む人事担当者は多いかもしれません。
この記事では、入社前研修の効果や目的、適切な実施時期と内容などを詳しくご紹介します。効果的に行うポイントもあわせてお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
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入社前研修とは
まずは、入社前研修の概要と実施時期など、基本的なポイントを押さえていきましょう。
入社前研修の概要
入社前研修とは、新卒採用において内定者フォローの一環として行われるものです。内定後、入社までの期間が比較的短い中途採用とは異なり、新卒採用では、内定承諾から入社までに半年から1年ほど時間があくことも少なくありません。
その間に内定者に必要な知識を身につけてもらったり、お互いのイメージをすり合わせたりするのが、入社前研修の主な目的です。
この入社前研修を効果的に行うことで、以下のような効果が期待できます。
- 入社前と入社後のギャップをなくしスムーズに社会人生活に入ることができる
- 内定者の不安な気持ちを払拭し内定辞退を防ぐ
入社前研修の実施時期
入社前研修は、特に「この時期に行うべき」と決まっているものではありません。ただ、その内容は時期によって使い分けるのがおすすめです。
- 8~10月:同期間の関係づくりや社員との交流で内定後のフォローを行う
- 11~1月:ビジネスマナー研修などで社会人としての意識転換を促す
- 2~3月:業務に使うスキル習得など、より実地的な内容に移る
上記はあくまで一例ですが、最初は内定者の不安を払拭するようなコミュニケーションを重視し、段階的に社会人として必要な意識を持てるよう促すなど、時期に合わせた内容を設定するとよいでしょう。
入社前研修の目的
入社前研修を効果的に行うには、その目的を意識することが大切です。代表的な5つの目的は以下のとおりです。
- 早期の人材育成
- 入社前の不安払拭
- 内定辞退の防止
- 早期離職の防止
- 同期とのコミュニケーション
ここでは、それぞれの目的について詳しく解説します。
早期の人材育成
入社前研修の目的の1つに「人材育成」があります。新入社員の教育は企業が責任を持って行うものですが、基本的なPCスキルや社会人としての意識を身につけられていない場合、どうしても受け入れる現場の負担が大きくなってしまいます。
入社前研修でこの「社会人としての土台づくり」をしておくことで、入社後の人材育成がスムーズになる効果が期待できます。
入社前の不安払拭
「マイナビ 2022年卒内定者意識調査」によると、「入社予定先企業を決めた後、不安になったことはあるか」という設問に対して、内定者の60.8%が「不安になったことがある」と回答しています。
また、その理由として21.8%の内定者が「社会人としてやっていけるかどうか」、17.8%の内定者が「この会社できちんと務まるかどうか」を挙げています。これらの不安に寄り添い、適切な研修で不安を払拭することも大切な目的です。
内定辞退の防止
入社前研修には、内定辞退の防止という目的もあります。入社までの期間に内定辞退が出てしまうと、改めて最初から採用活動を行う必要が出てきてしまいます。時期によっては、採用活動をもう一度行うことが難しい場合もあるでしょう。
適切なフォローにより内定者の入社意志やモチベーションを保つことも、大切な目的の1つです。
早期離職の防止
近年、新卒で入社した社員の離職率は「3年3割」ともいわれており、早期離職の防止は多くの企業にとって課題となっています。(※参考)
早期離職の理由はさまざまですが、「仕事内容が合わない」「賃金や条件がイメージと違った」「企業文化になじめない」など、「入社前のイメージとのギャップ」が挙げられるケースが多数です。
この解決方法の1つが、入社前研修です。入社前研修で企業理解や仕事内容の理解を促すことで、入社前と後のギャップを軽減する効果が期待できます。
同期とのコミュニケーション促進
同期との連帯を強め、コミュニケーションを促進することも、入社前研修の大切な目的です。社会人生活に飛び込む学生にとって、同じ立場の同期は、不安を分かち合い支え合える貴重な存在です。
「どのような人がいるのだろう?」「上手くなじめるだろうか?」といった内定者の不安を軽減し、入社前に同期との関係性を築いておくことは、入社意欲を高めることにつながります。また、同期だけではなく、年の近い先輩社員と交流の機会を設けることも効果的でしょう。
入社前研修では何をするべき?
入社前研修の目的は分かっていても、「では実際に何をすればいいの?」と迷ってしまう人事担当者の方は多いのではないでしょうか。以下に、内定者研修で企業が期待することと、内定者の実感を比較した調査結果をご紹介します。
以下の表は、株式会社ディスコ キャリタスリサーチの「調査データで⾒る「内定者フォロー」-2022年卒調査-」の一部抜粋です。
企業が意識していること | 学生が実感していること | |
入社意欲の維持、醸成 | 73.3% | 25.3% |
内定者同士のコミュニケーションの活性化 | 71.1% | 26.7% |
学生から社会人への意識改革 | 46.8% | 35.7% |
企業・仕事への理解向上 | 46.8% | 31.3% |
企業が期待する項目のうち「入社意欲の維持」「コミュニケーション活性化」が上位ですが、学生が実感することとしては「社会人としての意識改革」「企業や仕事への理解向上」が挙げられます。
入社前研修ではこの差を意識して、企業が教えたい内容ではなく「学生の不安を払拭すること」を重視するのが重要といえるでしょう。
入社前研修を効果的に実施するためのポイント
入社前研修は、やり方次第でその効果が変わってきます。ここでは、効果的に実施するポイントについてご紹介します。
研修の目的とゴールを共有する
まずは、研修の目的とゴールを共有することが重要です。
- 何のために入社前研修を行うのか
- 研修終了後にどうなっていて欲しいのか
上記の2点は、研修に関わる社員や関係者、そして、内定者自身とも共有しておきましょう。そのうえで、入社後の新人教育とも関連性を持たせて研修内容を精査していくと、スムーズに入社後へつなげることが可能となります。
現場にヒアリングする
具体的に「新入社員にどのようなスキルを身につけて欲しいか」について、現場の社員にヒアリングをするのも1つの方法です。
入社後には、現場ごとに新人教育の場が設けられます。その新人教育に着手するにあたって必要な「基礎スキル」を入社前研修で担保することは、「現場の負担削減」や「新入社員のスムーズな業務開始」にもつながります。
スケジュールを立ててから実施する
入社前研修では、設定したゴールを目指して「最終的にいつまでに、どのようにスキルを身につければよいのか」も意識しつつ、スケジュールを立てて着手しましょう。
内定後、入社までの期間が長い場合には、「年末までは交流会や内定式でコミュニケーションを重視」「年明けから入社までは社会人としての基礎スキルを習得」など、段階的にゴールを設定し、スケジューリングするとよいでしょう。
入社前研修の実施例
入社前研修には、座学やeラーニングなどさまざまな実施方法があります。ここでは、具体的な実施例をご紹介します。
座学研修
内定者を集めて行う座学での研修は、入社前研修のスタンダードな形といえます。以下に、どのような内容で行われるのか代表例をご紹介します。
ビジネスマナー
挨拶や名刺交換、お辞儀の仕方、メールの書き方、電話対応などのビジネスマナーは、入社前研修で取り入れられる代表的な項目です。社会人としての基礎的なスキルを学んでいく過程で、「社会人としての意識」が自然に身についていくのもメリットといえるでしょう。
OAスキル
就職活動をWebで行うことが一般的になった今、内定者のほとんどが基本的なPCスキルを持っていることは確かです。しかしその一方で、ExcelやPowerPointなどのオフィスソフトを使い慣れていない学生も多くなっています。
入社前研修でOAスキルを取り入れることは、内定者のスキルレベルを底上げすることにつながります。そうすることで、入社後の業務習得のスピードを上げたり、受け入れる現場の負担を減らしたりといった効果が期待できます。
企業・業界・事業理解
自社が属する業界や、自社の歴史・事業に関する座学研修も、代表的な内容として挙げられます。入社前にそれらの理解を促すことによって、入社へのモチベーションの維持が期待できるでしょう。
e-ラーニング
自宅のPCを使って行うeラーニングは、内定者を集めずに行えることがメリットです。内容はビジネスマナーやPCスキルなどの基礎的なものから、コンプライアンス、簿記や経理、法律に関するものなどが挙げられるでしょう。
また、テスト結果を確認することで、点数の低い内定者へのフォローを行うことも可能です。
書籍の配布
自社が属する業界や、担当する業務に関する書籍を配布して自習をすすめてもらう方法もあります。人事担当者のマンパワーがなくても比較的行いやすい一方で、内定者の習得・理解レベルを測りにくいといったデメリットもあります。
必要に応じて課題を設けたり、座学研修と併用するなど、効果的に行う工夫をすることも大切です。
内定者アルバイト
内定者アルバイトとして、社内のさまざまな場所で働いてもらうことは、内定者が社内の雰囲気や仕事内容を体感する貴重な機会となります。あくまでアルバイトとしての立場になりますので、強い負荷のある仕事は避けるよう配慮し、経験に重きを置くようにしましょう。
ビジネスゲーム
ゲーム要素を取り入れて研修に生かす「ビジネスゲーム」は、必要に応じて入社前研修に取り入れると効果的です。以下のように、目的に応じてさまざまなビジネスゲームがあります。
- 内定者同士のアイスブレイクの役割
- チームビルディングや関係構築
- 研修カリキュラムに沿った内容のゲーム
例えばアイスブレイクが目的であれば「漢字自己紹介ゲーム」「共通点探しゲーム」、チームビルディングや関係構築を目的にするなら「NASAゲーム」「ドミノゲーム」などがあります。
資格取得や検定の支援
業務で必要な資格、関連性の高い検定があれば、資格取得や検定受検を支援することも入社前研修の方法として挙げられます。取得費用のサポートや情報提供を行うことなどで、業務に必要な知識の習得を促せるでしょう。
内定者にとっても、余裕のある学生時代に学習を進めることができ、費用のサポートが受けられるのはメリットといえます。
入社前研修に関するよくある疑問
最後に、入社前研修で人事担当者の方が持ちやすい疑問とその回答についてご紹介します。
入社前研修は義務付けてもいい?
入社前は、まだ労働契約の効力が発生していない状態です。会社から入社前研修を義務づけるのは労務の提供を求めることとなるため、基本的には強制することはできません。入社前研修はあくまで内定者の同意を得て行うのが適切です。
入社前研修に賃金を支払わないと違法になる?
入社前研修に内定者の同意を得ていても、内定者アルバイトや、業務に密接に関連する集合実務研修のように「労務の提供」に準ずる内容の場合、賃金支払い義務が発生します。
ただし、内定者は「始期付解約権留保付労働契約」の状態にあり、地域の最低賃金を上回っていれば、初任給程度の金額ではなくても構いません。
入社前研修でも労災保険は適用される?
入社前研修で内定者が怪我をした場合などに、労災の適用対象となるかどうかについても気になるところです。
労災保険が適用されるには、まず内定者が労務を提供していて、それに対する賃金が支払われていることが前提となりますが、以下の条件も必要となります。
- 最低賃金以上の賃金を支払っている
- 研修内容が入社後の業務と関係性が高い
- 使用者の指揮命令下に置かれている
一方、研修内容と入社後の業務の関連性が薄いと労災保険の適用対象外になる可能性があります。
まとめ
入社前研修は、適切に行うことで内定者フォローになる、新入社員を受け入れる現場の負担が減る、早期離職を防ぐ、などの効果が期待できます。実施するなら、研修の目的とゴールを丁寧に共有し、スムーズな入社につながる研修を計画しましょう。
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